3月始まりのロルバーンダイアリーでは、アーティスト 落合晴香さんとのコラボレーションが登場します。春にぴったりの色鮮やかな花のアートは、紙に描いた筆跡を切り取り、再構築して作られたもの。原画を見せていただきながらいろいろと聞いてみると、その特徴的な作風には、作り手である落合さんそのものが反映されていました。 制作過程のことや、春にまつわるお話も。25歳という若さで幅広く活躍している落合さんの、心の内を覗いてみましょう。
―デルフォニックスのデザイナーが個展に伺ったことをきっかけに、コラボレーションのお誘いをさせていただきました。作品が手帳の表紙になることについて、どのように感じていますか?
普段制作などにロルバーンノートを使っていて。ダイアリーも学生時代から愛用していました。
手帳は生活に密着しているプロダクトで、人の手に馴染むものだと思っています。これまでもパッケージや広告などのお仕事をしたことはあったのですが、手帳のような身近なものに使われるのはあまりなかった経験で、とても嬉しく思っています。
―確かに、手帳は「1年間持つ」という点で、生活との距離が近いですよね。
一般的な文房具ともまた少し性格が異なるというか、特別感がありますね。実は、私自身はスケジュール管理があまり得意ではなくて、手帳と向き合うのも少し力むというか、苦労してしまうんです。
でも、以前個展で「お花を見て心が癒されました」と感想をもらったことがあって。散歩中に綺麗な花を見かけてちょっといいなと思うのと同じように、この手帳を手に取った方にも、肩の力を抜いて、そんな気持ちになってもらえたら嬉しいです。楽しいこともありますが、やっぱり生きるのって大変だから。日々頑張って生きている人に使ってもらいたいですね。
……みんな頑張っていると思うんですけど(笑)
―手帳には、毎日の頑張りが詰まっていますよね。
未来の予定管理に使うものでありながらも、過去を振り返るためのものでもあるという感覚です。自分の昔の手帳も捨てられずに残しています。高校生の頃のものなど落書きばかりですが、たまに見返すと、「この時こんなことを考えていたんだ」と面白く、記録することに意味があると感じます。誰かにとってのそういった一冊になれば嬉しいですね。
―花びらや茎など、すべて別々のパーツで作られているのですね。
花びらだったら花びらだけ、紙に水彩絵具でたくさん描くんです。鮮やかな色彩が好きなので、混色はあまりせずに、絵具の色をそのまま使って。それを切って、色々な形を組み合わせながら、コラージュしていきます。昔から、切って貼っての細かい作業が好きで、最近実家で幼い頃の作品を見たら「今と同じことをしている!」と思いました。
―好きな作業から、自然と今の作風になったのですね。形が決まったら、スキャンしているのでしょうか?
いえ、写真を撮っています。あえてフラッシュを焚いたり、パーツを少し反らせたりして、影を落とすんです。影や光の反射ってより自然に近い要素ですよね。自分でコントロールしきれないというか、偶発的な要素に頼って作品を作っていて。部分的にホログラムのような折り紙を使っているのも、どう光るかわからないのが面白いかなと。
異素材が組み合わさった感じも個人的に好きで、大切にしているポイントです。
―最後は自然に身を任せ、ということですね。
はい。紙に直接的に絵を描くように、自分の手で決めきってしまうことに自信がないというのもあるのですが、そこが作品の奥行になっているとも感じます。絵でありながらも、その瞬間を写す、写真っぽい要素もあるのかもしれないです。
―作風には、落合さんの様々な「好き」の要素が組み合わさっている、という印象を受けました。普段から好きなものを探すためにアンテナをはっているのでしょうか?
元々興味の範囲が狭く深いタイプで。好きな作家さんの展示を見に行ったり、好きな音楽に触れる時間をとったりというのは大切にしています。好きなものをたくさん摂取すると、自然と「私も何か作りたい」という気持ちになります。ただ最近はそれだけでなく、「乗ってみる」というのも大事だなと感じていて。
―「乗ってみる」というと?
友人など周囲の人に誘われたりおすすめされたものに、行ってみる。結果としてあまり興味が生まれなかったとしても、経験として得られるものはあって。そうやって好きなものが増えていくと、生きていて楽しいと感じますね。SNSなどで入ってくる情報もたくさんありますが、どうしても全てを消化しきれずに脳が圧迫されていく感覚があるので、自分の足で経験することに意味があると思っています。
―お忙しい日々かと思いますが、自分の時間も大切にされているのですね。
少し遠方まで好きな展示を見に行ったりすることも多いのですが、結局移動時間の方が長かったりして。でも、電車に乗って移動している時間もすごく好きなんです。本を読んだり、のんびり外を眺めたり。することが限られているからこそ何もしなくていい。自分のことをぼーっと考えてみたりするのも、大切な時間だと感じています。
―落合さんの作品は、春に似合うものが多いと感じます。
一番好きな季節です。散歩していて一番気持ちがいいですね。春に草花の作品をたくさん作り、「浮いた春」という個展をしたこともあります。パーツが紙から浮いているようなニュアンスを、そのままタイトルにしました。
―道端の花壇に咲く花などを、制作のモチーフにされることも多いとのことでした。春の印象的な記憶はありますか?
大学時代は新潟に住んでいたのですが、チューリップが有名で、公園に遊びに行ったんです。一面に咲く色とりどりのチューリップが風に揺れ、蝶々が飛んでいて、天国のようで感動したのを覚えています。「この気持ちを共有できないか」というところから絵にしたいと感じるので、春は特にそういった機会が多いかもしれません。今住んでいる国立という地域も花が多く、毎年素敵な景色を見ることができます。
ー新生活の季節でもありますが、今年の春、何か新しく挑戦してみたいことはありますか?
日記をつけることを、ルーティンとして組み込めたらと思っています。最近、時間が経つのがあっという間で。色々なことをどんどん忘れて、気が付いたらもうこんな時期です(笑)。昔と比にならないくらい1年が短い。これからもっと短くなって歳をとっていくのだろうと思うと、今日という1日があったことを残したい、忘れたくないと感じるんです。
穏やかな陽気でありながらも、新生活や環境変化に少し力んだりもする春。3月の手帳は、そんな気持ちと共に使い始めるアイテムだ。慌ただしくいつもより少し早く流れる日々のふとした瞬間、道端でのどかに揺れる植物に癒される。そんな気持ちを呼び起こしてくれるアートを新しい季節の相棒に選んでみてはどうだろう。 作り手の「好き」が詰まった、鮮やかで優しい草花が描かれた手帳。片手に持ってのんびりと出掛けてみたら、きっと素敵な時間になると思う。
落合晴香 Haruka Ochiai
イラストレーター/デザイナー/アーティスト。1997年生まれ。紙に描いた筆跡を切り取り、再構成するという独特な手法で表現した作品が魅力。2023年 、デルフォニックスとのコラボレーション手帳を発売。
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